ロンドンレポートvol.16 ロンドンの街を歩く特別な一日──London Open House Festival 2025

ロンドンレポートvol.16 ロンドンの街を歩く特別な一日──London Open House Festival 2025

こんにちは。川井公式オンラインショップです。

イギリス在住の大学生ひなさんのコラム第16弾!

 

こんにちは、ひなです。

イギリスの天気は30分ごとに違う表情を見せ、ひと足早く秋の訪れを感じます。

日本は残暑が厳しい頃だと思いますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

今回は毎年9月にロンドンで開催されるLondon Open House Festival に行ってきたのでご紹介します。

ロンドンオープンハウスフェスティバルとは?

まず、London Open House Festivalとは毎年9月にロンドン各地の建築物・住宅・公共空間を一般公開し、普段入れない場所や注目の建築を見学できるイベントです。

予約が必要なガイドツアーやアーティストスタジオの公開、予約不要で自由に出入りできるドロップイン形式など、幅広い形式があります。

2025年は913~921日まで開催され、事前予約開始は820日正午でした。

700以上の建物、スペース、体験が一般公開され、2024年は累計27万人が訪れたそうです。

予約制のツアーはすぐに埋まってしまうため、事前にアカウント登録などの準備をおすすめします。

今回は、フェスティバル最終日の21日に予約不要の場所を3件まわってきました。

 

1.Rudolf Steiner House

最初に訪れたのは1926年に設計されたロンドン唯一の表現主義建築Rudolf Steiner Houseです。

Baker Streetの駅から徒歩5分ほどの場所にあります。

表現主義(エクスプレッショニズム)とは、現実を忠実に再現するのではなく主観的な感情や意識を強調して表戦する芸術運動です。

この芸術運動の特性上、直線や現実的な要素が少いので、建築の例は多くありません。

Rudolf Steiner Houseはその数少ない実例です。

 思想家ルドルフ・シュタイナー(Rudolf Steiner)の自宅として1926年から1937年の間に建設され、2度の大規模改装を経て現在はシアターやコミュニティースペースとして使われています。

スイスにある「ゲーテヌアム」と言う建物を模して建てられましたが、ロンドンの景観規制や技術的制約により現在の形になりました。

近くにリージェントパークがあることから「木」というコンセプトが、建物全体からインテリアまで一貫して随所に取り入れられています。

外観は一見シンプルに見えますが、根のように立ち上がる角や独特の窓の形など工夫が凝らされています。

奥側の建物が最初に建てられその後増築して現在の形になりました。

内部に入ると、この建物の象徴ともいえる曲線的な階段が目に飛び込んできます。

直線をほとんど使わず設計され、まるで木の幹をのぼるように螺旋を描いて上がっていきます。

中央のライトは建設当時のものだそうです。

さらに、壁には特殊な塗料が用いられ、太陽光の当たり方で色が変わる仕掛けがあります。

下部はオレンジや黄色から始まり、上部に向かうにつれて紫へと移り変わる設計でした。

現在では多くが失われていますが、部分的にその名残を見ることができます。

 

2.Two Temple Place

次に訪れたのは、1895年に完成したネオ・ゴシック建築 Two Temple Placeです。

1建築家ジョン・ラフバラ・ピアソンが、富豪ウィリアム・ウォルドーフ・アスターのロンドンオフィスとして設計したものです。

建物中央の大階段は壮大で、先ほどのRudolf Steiner Houseの有機的な階段とは対照的。

大理石の床、天井のステンドグラスから自然光が差し込み、訪れる人を圧倒します。

The Great Hall」と呼ばれる大広間には建設当時からのステンドグラスが残り、130年経った今でも至近距離で鑑賞できる貴重な機会でした。

また、ある部屋にはウィリアム・モリスの壁紙が使用されていました。

直接的な関係はないものの、展示を行った経緯や、完成年がモリスの没後1年であることから、時代的なつながりを強く感じます。

ネオ・ゴシックとアーツ・アンド・クラフツという一見対照的な様式が、同時代に異なるアプローチで存在していたことを実感しました。

 

3.Walworth Garden

最後に訪れたのは、地域コミュニティ主体で運営されているWalworth Garden

先ほどの二つとは大きく異なり建物そのものに歴史的な特徴があるわけではありませんが、人々の暮らしを支える大切な場所です。

 1970年代後半、再開発でビクトリア様式の住宅街が取り壊されましたが、資金難で計画が中断され、土地は荒れ地に。

1987年に地元住民がコミュニティガーデンとして再生し、現在まで続いています。

女性建築家やフェミニスト建築事務所の協力で教室や事務所が建設され、今も使用されています。

現在は150種以上の植物、養蜂場、温室、池などが整備され、18名のスタッフと多数のボランティアが維持管理を担っています。

園芸資格の講座や福祉・健康・環境教育のプログラムも行われ、地域に欠かせない存在です。

訪れてみると、人の手が適度に加わった空間は小動物や植物にとっても心地よく、リスや蝶が憩う姿を見ることができました。

ベンチやテーブルでは地域の人々がくつろいでおり、「地域に根差した庭」という本来の役割を強く感じました。

 

本当はもう一か所行きたかったのですが、時間が足りず断念しました。

それでも一日で3つの異なる空間を巡ることができ、来年もぜひ参加したいと思えるフェスティバルでした。

普段は閉ざされた建築や地域に触れられる貴重な機会として、London Open House Festivalは建築好きの方はもちろん、ロンドンの日常を深く知りたい方にも強くおすすめしたいイベントです。

 

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