印刷工房、ケルムスコット・プレスについて
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ケルムスコット・プレスはウィリアム・モリスが「理想の書物」を世に送り出すために作った印刷工房です。1891年ロンドンに創設されました。
ケルムスコット・プレス設立の元々のきっかけとしては、1888年にモリスが印刷の専門家であるエマリー・ ウォーカーの講演を聞いたことより、印刷についての関心、そして理想の書物を作る目的から設立に至りました。
モリスにとって理想の書物とは、美しい活字が用いられ、美しい用紙への印刷、美しい装丁での製本がなされることでした。モリスは理想の書物を作ることに対して非常に徹底しており、縁飾りから挿絵(挿絵の枠も含む)などまで、あらゆる装飾要素をデザインしたり、字間・語間・行間・余白などについてもあらゆる検証を行った上で規則がつくられました。また、挿絵については友人の画家バーン=ジョーンズの協力も得ます。ケルムスコット・プレスでの活字は、ゴールデン活字・トロイ活字・チョーサー活字がデザインされました。
1896年に刊行された「チョーサー著作集」については、中世イギリス詩人ジェフリー・チョーサーの著作集であり、ケルムスコットプレスにおける集大成的な作品とも言われます。豚や羊の皮を使った手漉紙に、バーン=ジョーンズの挿絵やモリス自身のデザインした台扉、縁取り、トロイ活字やチョーサー活字などの装飾文字などが使用されています。
モリスは出版に関して、あくまでも手作業での手引印刷にこだわりました。当時のイギリスでは輪転印刷が広まっていた中で、やはり生涯を通して行った手仕事へのこだわりの姿勢がここでも伺われます。ケルムスコット・プレスでは全53書目、66冊の書物が出版されました。1896年にモリスはケルムスコット・プレスにて亡くなるのですが、晩年に至るまで美しい書物にこだわり制作を行っていたモリスの情熱をケルムスコット・プレスでの活動を通して感じられます。