モリスの別荘、「地上の楽園」ケルムスコットマナー
ケルムスコットマナーはイングランド南部のコッツウォルズにあるケルムスコットという小さな村にある屋敷で、ウィリアム・モリスが別荘として使用しておりました。
1871年にモリスはケルムスコットマナーを見たモリスは「地上の楽園」とも称したそうです。
モリスは、師匠であり友人でもあった画家のダンテ・ガブリエル・ロセッティと共同でケルムスコットマナーを借ります。
様々な活動で忙しくていたモリスは、ロンドンにある家で過ごすことも多かったため、ケルムスコットマナーは妻のジェーン・モリスとロセッティが主に使用しておりました。
モリスがケルムスコットマナーを借りるに至ったことも、世のスキャンダルから自分たちを守るという意図もあったとされています。
3年後にノイローゼなどの理由でロセッティはケルムスコットマナーを去ります。
その後はモリスと妻子たちが屋敷を使用しました。
ケルムスコットマナーは16世紀に建てられ、モリスが借りる以前には農家のターナー家が使用していましたが、モリスが使用するようになってからも、地元で調達した建材でチューダー様式という建築様式で建てられた古い建築の保存にこだわり、そのままのしつらえが気に入っていたモリスは外観を含め出来るだけ手を加えませんでした。
ケルムスコットマナーは、豊かな自然、季節の移ろいを感じられるガーデンがあるので、そこからのインスピレーションにより数々のデザインが生み出されたとも言われています。
モリスが理想とした完璧なライフスタイルの象徴ともされました。
屋敷内には、妻のジェーンと娘のメイが手がけた刺繍の作品もあり、モリスの寝室の寝台を飾るファブリックにはモリスの詩をモチーフにしたデザインでの刺繍を行いました。
また、モリスの作品の中では壁紙も有名ですが、ジェーンの部屋は「ウィローボウ」という柳をモチーフにした壁紙が使用されています。
ケルムスコットマナーの近くのテムズ河の土手の柳からインスピレーションを得てデザインされた、枝の流れや細長い葉が美しい壁紙です。
モリスは生涯ケルムスコットマナーを愛し、自らのデザインでどんどん手を加えていくのではなく、借り上げたその頃からの建物や周辺の環境が持つ魅力・本来の良さをそのままに活かし「アーツ・アンド・クラフツ運動」に携わるあらゆる発想の原点が生まれる場所になりました。